バルバの森の賢者

バルバの森には一人の賢者がいました。賢者といってもまだ若い青年です。

何年か前に生まれ育った村を出て、この森にやってきました。

今は森の狩人の見張り小屋を借りて、なにやら難しい研究しています。

 

毎日の食事は、小屋を貸している狩人が用意してくれました。

だから、賢者は日々の生活においては、何の心配もする必要はなく、

ただひたすらに結論を求めて研究を続けました。くる日もくる日も、四六時中、

いえ本当に一歩も部屋を出る事もない日を、何週間も続けています。

 

ある日、賢者の研究はいき詰まってしまいました。本棚の蔵書をひっくりかえして調べても、

紙にぐちゃぐちゃと計算を書き殴ってみても、ちっとも研究は進みません。

 

とうとう賢者は、研究を放りだして小屋を飛び出しました。

そして、気晴らしのつもりでぶらぶらと散歩にでかけたのです。

 

しかし、賢者は少し歩いた所で地面に目を落とし、そのまま立ち止まってしまいました。

腰をかがめて、じっと地面を見ています。

 

そこへ一人の少女がやってきました。

 

賢者が地面をじっと見ているので、横からのぞいて見ました。しかし、石ころひとつありません。賢者は少しも少女を気にとめず、じっと地面を見ています。

 

「賢者さん、なにを見ているの?」

「私は私の影を見ているのだ」

「影ですか?」

「そうだ、ここに私の影があるだろう。それを見ているのだ」

「どうしてそんなに真剣に影を見ているの?」

「影を消す方法を考えているのだ」

 

びっくりして、少女は賢者にたずねました。

 

「どうして影を消すの?」

「見てみろ。私の影があるせいで、影に覆われた地面は陽を閉ざされてジメジメと

暗くなっているではないか。これは私のせいだ。私は影を消す方法が知りたい。

…ああ、こうしているうちにも、私のせいでここの地面は、どんどん冷たくなっていく。」

 

賢者は地面に目を落としたまま、うんうんと悩みつづけています。

「あら、それなら簡単よ」

少女は、おもいっきりドンと賢者を突き飛ばしました。少女に突き飛ばされた賢者はゴロンと道の脇に転がりました。

 

「いたたた、何をするんだ」

「これでさっきまであなたがいた地面に陽がさすわ。」

 

少女はニッコリと笑うと、賢者の脇を抜けて行ってしまいました。