すべてを手に入れた王様

「世界のありとあらゆる幸せを手にした王様は、どうなるのかな」

「ありとあらゆる幸せ?」

「全部さ。全部。お金、女、地位、名誉、俗な響きのするものだけではなくて、人望、人徳、名声ほかにも土地、権力、力、健康、若さ、不老不死でかまわない。それらを全部手にいれた王様は、次にどうなるんだろう。」

「まあ、物語なら、末永く幸せにくらしました、チャンチャンってとこでしょう。」

「いや、この王様は不老不死なんだから、チャンチャンで終わらない。まだ先が続くはずだ。」

「末永く暮らし続けました、じゃだめ?」

「おいしいものをたらふく食べて、楽しい劇をみて、音楽を聴いて、人々には慕われて。子供たちはすくすくと育ち。まてよ、育った子供達はどうなるんだろう。年をとって死ぬのかな。」

「王様が望むならね。子供達も不老不死だ。」

「仇なす敵は?」

「むずかしいところだが、ゼロではいかんね。王様の権力、力をしめす場がなくなるから、王様を退屈させない程度に弱すぎず、倒してしまわない程度に強すぎず。」

「まあ、そんなこんなで幸せに暮らしました。チャンチャン」

「だから、チャンチャンは、ないんだって。不老不死なんだから。」

「しかし全部手にいれて、毎日充足して、そういう日々が永遠に続いてかれは幸せなんだろうか。」

「幸せではない可能性があるの。」

「退屈なんじゃない?」

「だから、退屈はしないんだって。すべて思いどおりにいくんだから、退屈したら、楽しい劇でも本でも好きなだけ見ればいい。」

「それも飽きるでしょう。永遠なんだから。」

「飽きたら、自分で作ればいい。」

「自分で作るの? 面倒だな。」

「面倒と思うなら、人に作らせてもいい。」

「うーん。それで永遠に楽しめるんだろうか。」

「なにかまだ幸せではない可能性があるの。」

「この王様は死にたくなるような気がするんだよね」

「どうして。」

「もう、ありとあらゆることが思い通りにいって、思い通りの日々。たまには刺激がほしい。いや、わかってる。その刺激も得られる。失敗もいいかも。いや、わかってる。彼が望めば失敗ですら与えられる。他の人々は、王様が望むなら寿命で死ぬだろうし、望まないなら彼らも不老不死でかまわない。王様は生きている心地がしなくなると思うよ。」

「死なないんだから生きている心地でしょう。」

「死なないから、生きているなんて言葉も意味がなくなるんだよ。生きている状態が常なんだもの。わざわざ生きているなんてことを思わなくてもその王様は死なない、行き続ける。死なないとなれば生きているなんてことをあらためて問うこともない。永遠に行き続ける日々。彼はどこに行きつくんだろう。」

「自分は不老不死だ。子供を残す必要もない。食べる必要もない。この世界に留まり続けるこの命は何だ。何のために本を読む。劇を見る。楽しい。楽しいけれど先になにがある。望むなら世界中の食べ物を好きなだけ食べることができる。世界中の女をすきなようにできる。しかし、それをした後に王様はなにをする。」

「仇なす敵をうつ」

「どうぞ、討ってください。勝ちたければ勝てます。たまに負けたければ負けることもできます。わざと相手に捕まって奴隷の生活を味わう? かまいません。好きなだけあじわってください。飽きたら言ってください。どこへでも好きなところへお連れします。」

「これはたまらないね。」

「望みどおりに事が運ぶ。たまに裏をかかれたいと思うと、うまい具合に彼の裏を書いてくれる。」

「やっぱり死にたいと思うだろうね。」

「どうして。死んだら、酒も食事も女も本も、ありとあらゆるものがなくなるんだよ。」

「いや、彼はすべてを手に入れた王様だから、生き返りたければ生き返ってもいい。しかし、しかし、おそらく彼はそれをしないでしょう。それをしてどうなる。やはり思い通りの日々が延々と続いて、生き死にすらもぼんやりと境なく行き来できるようになると、もう彼はどこにも逃げる場所がない。ぼんやりと何もしないまま生きるか。それかやはり死んでしまうでしょう。もう望むものはない。」

「どうして、食事は。本は。女は。」

「もうあとは繰り返しだよ。王様はそれはもう飽きた。わかってる、新しいものを用意すると言うんだろう。しかしそれも飽きた。目新しいものが出てくるということにも飽きた。じゃ、それに反して何もだしません。わかってる。そういうのも飽きた。私は永遠の時を生きてきたのだ。君の思いつくことはすべて何度も何度もやってきたのだ。」

「王様は望みました。『今まで生きてきたすべての記憶を消して、また新たに自分をやりなおさせてくれ。そうすればこの永遠の命を再び楽しむことができるだろう。』」

「なるほど、そうくるか。しかし、それは重大だぜ。今まで生きてきたすべての記憶が消えた存在は、それはその前の王様と同じ人だと言えるのかい。別人ではないのかい。」

「たしかに。体は一緒でも記憶はゼロからだからね。」

「それならなにも不老不死である必要がない。子供を作れば同じことだ。体も新しくなる。」

「王様は死ぬに違いない。自然は良くできている。」