太郎が浜

作/たま

昔々、コウという女がおりました。
気立てが良く働き者で、海で夫を亡くしてからは、後を継いで漁師になった息子の太郎と二人で暮らしておりました。

ところが、ある日、太郎は漁に出たきり帰ってきませんでした。
心配したコウは、くる日もくる日も浜に出て太郎の名を呼びました。
潮風で顔には深いしわが刻まれ、声はしゃがれてしまいました。
あわれに思った近所の者が時折米や野菜を分けてくれましたし、コウも畑の手伝いやわらじ作りなどをして、何とか暮らしておりました。
それに、ふしぎなことに、コウが浜を歩いていますと、毎日必ず一匹、うまそうな魚が足元に打ち上げられるのでした。
そうして、その浜はいつしか「太郎が浜」と呼ばれるようになりました。

今でも、太郎が浜の貝殻を耳に当てると、子を呼ぶ母の声が聞こえるということです。
コウはその後、亀に姿を変えて息子を待ち続けたということです。

太郎がひょっこり帰ってくる、数百年も前のお話。