星屑祭

今夜は、天を覆うような星空です。

 

大きな山の向こうの、ずっと向こうにある小さな町では「星屑祭」が行われています。汗を流して働いた大人達も、駆け回って遊んだ子供達も、みんな町の広場に集まってきました。

町の広場が「星屑祭」の会場です。蛍色のランプを持った人達は、星の塔の周りで、歌ったり踊ったり。それはたいへんな賑わいです。

ですから、いつもは家々から漏れる明かりで忙しいパッセン通りも、今日はとても静かです。遠く聞こえる「星屑祭」の歓喜をよそに、氷のような星の輝きを一身に受けたパッセン通りは、にわかに青白く色付いています。

 

パッセン通りには、冷たい星がしんしんと降り注いでいます。

そこへ、レンガ造りのちいさな家から一人の少年が出てきました。

「今日は星でいっぱいだ」

少年の仕事はパッセン通りに並んでいる街灯に、灯を入れて歩くことです。

少年はスタスタと街灯の下に歩み寄って、カチっとコックをひねりました。すると、街灯の一番てっぺんにあるガラスの球に、ぼっと灯がともりました。灯はゆらゆらと大きくなり、あたりを照らします。その光は冷たいパッセン通りをゆっくりと暖めていきました。

 

しかし、街灯の灯が大きくなるにつれ、空を飾る星の光は、シラシラと消えていきます。少年はなんだか寂しくなって、すぐにカチッとコックを戻しました。

 

パッセン通りに、また冷たい星がおりてきました。あたりは静まりかえっています。

「君。どうして灯を消したの」

向こうのほうから、こつこつと靴音を響かせて一人の女性がやってきました。

これから「星屑祭」に向かうのでしょうか。手には月を模したブリキのランプを持ち、ギラギラと光る鱗のような衣装に身を包んでいます。

「星が燃えるから」

「そんな事があるかしら。星は空の上の、ずっとずっと上にあるのよ。

燃えるわけがないわ」

女性は天体がどうの、何万光年がどうのと少年に説明するのですが、少年には――もちろんその内容は理解できませんでしたが――それよりも、なぜそんな説明をしているのか、そのことがわかりませんでした。

「でも見たよ。星が燃えた」

「君、勉学をしなよ。街灯の灯で星が燃えるなんて、だれも教えないわ」

少年は、なにか口に重い物に押さえつけられたような気がして、何も言えません。

「さ、君。はやく街灯をつけなよ。それが君の役目でしょう。それをあれこれと

理由をつけてやらないのは、それは子供だよ」

そう言って女性は、そばにあった街灯のコックをひねりました。

再び、あたりは灯の暖かい光につつまれます。

やっぱり少年には星が燃えていくように見えました。

「ほら、見て。見て。」

しかし、女性はちらりとも空を見ようとはしません。

「君、勉学をしなよ。勉学をしな」

そう言って、哀れむように少年を見ると、すっと「星屑祭」の広場へと歩いていきました。

 

 

パッセン通りには、ぽつんと一つ、暖かい光の輪がゆらめいています。

女性は、もう見えない所へと行ってしまいました。

 

さあ スターダスト・フィスティバル

今が楽しくないのはさ

いつか楽しくなる証拠

踊ろう 歌おう 歩き出そう

石につまづきゃ ひとやすみ

 

さあ スターダスト・フィスティバル

今が楽しくないならさ

でっかい声で泣けばいい

踊ろう 歌おう 歩き出そう

そうすりゃいつか 笑えるさ

 

さあ スターダスト・フィスティバル

 

その歌声は次第に近くなり、やがて街灯の光の輪の中に一人の男が入ってきました。

ちっぽけなギターをさげた、みすぼらしい老人です。

「少年、今の私の歌はだめだ。今の歌は偽物だ。忘れてくれ」

老人は、先ほど女性がつけた灯をカチッと消しました。

とたんにあたりは青白い、冷たい星の空気に包まれます。

「少年、星を見たまえ。星は輝いている。そうだ。ただ、輝くのだ。

誰に見られようと、見られまいとそんな事は星には関係ない。

ただ輝き続け、そしていつか自然に消えていく。ああ、なんてすばらしい」

物語の一節を読み上げるようにそう唄いあげると、ボロンと和音を奏でました。

「しかし、私の歌といったらなんだ。まるっきりの偽物ではないか。

ただ、歌う事などできない。どこかで私の歌には嘘がある」

そこまで言うと、老人ははじめて少年の目を見て、そして、すっと視線をはずしました。

「今もそうだ。今の歌も途中まではよかったのだ。

しかし、この場所で君が私の歌を聞いているとわかった瞬間、

私の歌は偽りの歌になってしまった。

”うまく歌ってやろう”と思ったら、とたんに私の歌は偽りの歌にかわった」

老人はなにか重大な事を言っているような口調で、必死にそう語るのですが、

少年には、老人がなにをそんなに嘆いているのかわかりません。

「でも、おじいさんの歌はとても上手だった」

少年は、正直にそう言いました。

「それはそうだろう。私はうまく聞こえる歌を歌ったのだ。誰もが皆、私を”神の美声”と誉める。だがね、少年。

他人を欺くことはできても、自分を欺き続ける事は、とても苦痛なのだ。わかるかい」

少年は、首を縦にも横にも振らずに、じっと老人の目を見つめました。

「いずれわかる。いや、わからない方がいいかもしれん。私はあれこれと歌を模索しているうちに、いつのまにやら自分の歌を忘れてしまった」

老人はそう呟くと、すうっと少年の元を離れて行ってしまいました。

 

今夜は天を覆うような星空です。

「星屑祭」は町一番の踊り子と、”神の美声”を迎え、最高潮の盛り上がりを見せています。

 

パッセン通りには、冷たい星屑が降り続いています。

少年はもう、どこかへ行ってしまいました。

灯をともしているのか。

星屑祭に行ったのか。

それとも。