悪魔を呼ぶ本

※  これは『悪魔を呼ぶ本』です。本を飛び出して悪魔が現れます。

悪魔を呼びたい人は、どうぞ読みつづけてください。

 

 

むかしむかしあるところに王様がいました。

王様はある国家を統治して、たいへん贅沢な暮らしをしていました。

 

この贅沢な王様のそばにはいつも、苦楽を共にし、時には苦言を呈してきた大臣がいました。とても賢い大臣でした。この賢い大臣のおかげで王様は、国民から無理な徴収をしたりだとか、金、女、名誉の欲望におぼれたりすることはありませんでした。

もちろん国が傾くような失策や暴挙はありません。贅沢な王様は、国民の大部分から慕われる存在でした。もちろん国民の中には王様を疎ましく思う者もいました。

 

そういった者たちは、贅沢な王様をその座から下ろすためにいろいろな事をやりました。

悪評、デマ、暗殺計画、もっと過激なものでは戦争をしかけたり。

 

あやうく贅沢な王様が殺されかけたこともありました。悪評による疑惑のために、国民が城に押しかけたこともありました。しかし贅沢な王様のそばにはいつも賢い大臣がいたので、どんなことでもスラスラと解決しました。この国家に大きな争いはなく、贅沢な王様の地位も安泰です。

 

やがて王様には3人の子供が生まれました。

 

※  悪魔は現れましたか? 悪魔なんて見当たらないという人は、どうぞ読みつづけてください。

 

3人の子供もとても贅沢でした。毎日毎日ご馳走を食べました。お金をばら撒くようにして遊び廻りました。しかし、3人の子供が国民に見放されるようなわがままを通そうとしたとき、いつもそばにいた賢い大臣が上手に叱ってくれたので、3人の子供は、金、女、名誉の欲望におぼれることはありませんでした。

 

やがて贅沢な王様は亡くなりました。

3人の子供のうち、一番年上の子供が、贅沢な王様のあとをついで2番目の贅沢な王様になりました。

下の二人の子供は、賢い大臣に教育されて大きくなったので、後継ぎの問題で争うことはありませんでした。

 

2番目の贅沢な王様も、賢い大臣の力を借りて上手に国家を統治しました。無謀な政策や、欲望におぼれることはありません。この国家の国民は二番目の贅沢な王様と賢い大臣をとても慕っていました。

 

3番目の贅沢な王様、4番目の贅沢な王様と続きます。賢い大臣は、いくつかの政策を国民に発表しました。「いつでも食料が豊富にあるとは限らない。日ごろからあまり贅沢をしないこと。動物は必要な分だけ狩ること。木や鉄のような資源も有限である。物を作りすぎないこと。環境を壊さないこと。」

 

もちろんこれらの政策に反対するものもいました。賢い大臣は、そういった人たちを言葉で説得しました。それでも納得のいかないものは自由にやらせました。しかし、賢い大臣の政策を実践するのが環境や資源や国民にとって有益なことであったので、多くの国民はそれを実践しました。

 

※  見渡してみてください。そろそろ悪魔が現れましたか? 悪魔なんて見当たらないという人は、どうぞ読みつづけてください。

 

5番目の贅沢な王様、6番目の贅沢な王様と続きます。ちょっとしたいざこざや、やはり贅沢な王様の座を狙うものは絶えませんでしたが、賢い大臣の子供、子供の子供、その子供のおかげでどれもスラスラと解決しました。しかし、賢い大臣は贅沢な王様に反対する者を根絶やしにしてやろうとは思いませんでした。賢い大臣はいろんな性格の者がいるからこそ国家が安泰であることを知っていましたから。贅沢な王様の座を狙うもの、王様を慕うもの。どちらも共存したまま、国家はだんだんと裕福になっていきます。

 

7番目の贅沢な王様、8番目の贅沢な王様と続きます。賢い大臣が打ち立てた政策のおかげで、人口は増えたり減ったり。環境は悪化したり改善したり。安泰が続くこの国家で、王様は贅沢ざんまい。国民も裕福になっていきました。

 

9番目の贅沢な王様、10番目の贅沢な王様と続きます。生活に刺激がない、なんてことはありませんよ。賢い大臣がいます。適度に刺激のある遊びや施設を次々と開発しました。私設の劇団を作って、恋愛や物語の劇に華をさかせました。当然です。賢い大臣ですから。

 

11番目の贅沢な王様、12番目の贅沢な王様と続きます。賢い大臣の政策のおかげで、環境破壊、人口爆発などといった問題とは無縁の国家でした。国民全員に食料や物がいきわたるため、犯罪はほとんど起こりません。賢い大臣のおかげで、善とされる思想や道徳を限りなく押し込めた国家を実現したと言っても過言ではありません。人殺しもほとんどありません。まったくないわけではないですよ。賢い大臣や裕福な国民が作り上げたこの国家は、のっぺりとした画一的な社会ではないのです。おっと、裕福な国民ばかりだとしても仕事をしない人が増えてしまうわけではないですよ。裕福な国民は賢い大臣の優秀な教育を受けていますから、つねに向上心、好奇心旺盛です。

 

どうです? 理想的でしょう。悪、醜い、汚いとされる物や思想や欲望といったものを最小限に食い止めた国家です。この国家の国民はとても裕福になりました。王様は贅沢を続け、賢い大臣はそんな王様を助け、裕福な国民は王様や大臣を慕っていました。

 

※  そろそろ悪魔が現れたでしょう。心を研ぎ澄ましてみてください。

ほら、そこにいますよ。 王様や大臣や国民を妬む悪魔が。

贅沢な王様の暴挙。賢い大臣の裏切り。裕福な国民の反乱。平和が続くことによる倦怠、疲弊。そのほか多くの黒い期待を胸に、この国家の没落を望む悪魔が。

不幸にならなければ面白くないと嫉妬する悪魔が。

悪魔なんて見当たらないという人は、どうぞ読みつづけてください。

 

13番目の贅沢な王様が国家を統治して間もなく、贅沢な王様も賢い大臣も裕福な国民も、みんな大地震によって死に絶えました。

 

※  悪魔を見つけましたか? 王様や大臣や国民が不幸になる展開を望みながら、ただ不幸になるだけでは、納得できない悪魔がそこにいませんか?

他人が不幸になる過程を楽しみたかったと拍子抜けする悪魔がそこにいませんか?